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全国各地の商店街活性化の事例から、「商店街活性化のヒント」になるノウハウをご紹介します! 商店街支援ノウハウ

 

チャレンジできる環境が、魅力ある人財(ひと)を育んでいく

対談
プロサッカー指導者 佐々木則夫氏
流通科学大学商学部特別教授 石原武政氏


多様な人財(ひと)の力を最大限活かし、組織が一丸となりチャレンジしていく。
これはどのような分野においても、成功を導くためのカギとなるプロセスです。
プロサッカー指導者として、個性豊かな選手たちをまとめあげ、サッカー日本女子代表(なでしこジャパン)をワールドカップ初優勝へと導いた佐々木則夫氏。
そんな佐々木氏が実践するチームづくりの中に、個店の集合体である商店街の活性化にも通じるヒントがあるのではないか——。
そこで今回、まちづくりや商店街の活性化に関する研究の第一人者、石原武政氏が多様な人財の想いを形にしていくためのヒントについて、佐々木氏にうかがいました。

  

選手自身で目標を決めることが、モチベーションアップにつながる

石 原 佐々木監督は最近、商店街を歩かれたことはありますか?

佐々木 もちろん。商店街の雰囲気が好きなので、昔からよく歩いています。

石 原 最近の商店街を見て、どのような印象をお持ちでしょうか?

佐々木 以前に比べると、何となく元気がなくなっているような印象を受けます。もちろん、頑張っている商店街も多いと思いますが。

石 原 私も調査・研究を行う中で、数多くの商店街を訪ね、現場の声を耳にしてきました。元気を失わせている要因としては、個店のモチベーションが上がらず、結果として商店街全体の活性化に結びつかないという問題があるようです。例えば、サッカー日本女子代表でも、試合に向けたモチベーションの向上は重要な課題になると思います。佐々木監督は日頃、モチベーションの向上について、どのように取り組まれていますか?

佐々木 まず、選手と監督・コーチなどのスタッフが同じ目標を目指し、共に努力していくことが大切になります。監督が目標を示すというスタイルもありますが、モチベーションを高める意味では、主役である選手自身が責任を持って目標を決めたほうが良いと考えています。

石 原 全員が合意できる夢や目標を決め、一丸となって取り組んでいくわけですね。

佐々木 そうです。私は200712月にサッカー日本女子代表の監督に就任しました。2008年夏の北京オリンピックでは「ベスト4に入る」という目標を掲げて大会に臨み、見事に選手たちは目標を達成しました。ベスト4に進んだことで、「あわよくばメダルを」という想いが私の頭をよぎりましたが、準決勝で米国に敗れました。

メダルを獲った国は皆、優勝という目標を掲げた国ばかり。掲げた目標の差が、試合結果に現れたのだと思います。

この経験をもとに、北京オリンピック以後は優勝を新たな目標として掲げ、具体的な努力の方法について、選手と一緒に考えていきました。途中で様々な壁に突き当たりましたが、そうしたときは、「なぜ、自分たちはその目標を掲げたのか」と基本に立ち返ることでモチベーションを高め、壁を乗り越えていきました。こうした積み重ねが、2011年の女子ワールドカップドイツ大会の優勝につながったと感じています。

石 原 本当に、あのときは日本中が興奮と感動に包まれました。快挙の背景には、北京オリンピックで味わった悔しい想いがあったわけですね。

佐々木 北京オリンピックでは本当に悔しい経験をしましたが、一方では、世界のトップレベルを体感し、自分たちの力量と、世界との差を知ることができました。届かない夢ではないと、選手たちも手ごたえを感じたのかもしれません。

 

目標に向かい努力する過程の中で、自分たちが秘める可能性を知る

 石 原 日本代表では、メンバー発表を行うたびに、新しい選手が加わると思います。その場合、従来からいた選手との融合を図り、チームとしてまとめていく難しさもあるのではないですか?

佐々木 チームをまとめるのは、私ひとりでは絶対に無理です。そもそも、日本代表チームは、監督と選手だけで構成されているわけではなく、選手を支えるテクニカルスタッフ、メディカルスタッフ、運営スタッフがおり、それぞれに果たすべき役割があります。その中で、リーダーとなる監督の役割は、目標に向かって皆が全力で取り組めるよう、それぞれの役割を整理してわかりやすく説明し、自主性を発揮してもらうことです。

また、コンビネーションなどの細かな戦術は、失敗を重ねていく中で、理想の形が見つかることが多いのです。さらに、チームをつくる過程では、ふがいない試合も経験しますが、悔しい経験をチームで共有するからこそ、選手の結びつきが強まり、皆で改善方法を考えていくようになる。そのようにして、本物のチームに近づいていくのだと思います。

石 原 商店街は、新しい個店が頻繁に入れ替わる、というよりも、昔ながらの個店が長く関係を続けているケースが多くなっています。そうした場合、新たに共通の目標を掲げ努力し、成果にまでつなげていくことは、実際のところ、非常に困難で時間のかかる作業となります。本当に目標を達成できるかどうか、不安に感じる方もいらっしゃるのだと思います。

佐々木 それは、サッカーでも同じです。優勝という目標を掲げても、実際にすべての大会で優勝することは、ほぼ不可能です。一方で、目標に向かって進む過程では、個人として成長を感じ、小さな達成感を得る場面が数多くあります。さらに、仲間たちと四苦八苦しながら、一緒に考え、行動していく。たとえ、結果は思ったものにならなくとも、この仲間と一緒に努力することができて良かったと感じる。より良い結果を得ることも重要ですが、目標に向けて進んでいく過程もまた、大切だと思うのです。

石 原 サッカーの場合、頂点に到達できるのは、わずか1チームです。厳しい前提がありながらも、目標に向かって努力していく。確かに、その過程で得るものはとても大きいでしょうね。

佐々木 目標へと歩んでいく過程では、反省や課題を得るのと同時に、自分たちが秘める可能性を知ることもできます。私自身は、そうしたプロセスに楽しさや喜びを感じますし、選手も同じだと思います。

 

成功の反対は失敗ではなく、チャレンジしないこと

石 原 失敗が起きると、選手たちの間では、その原因を“個”に求めてしまうこともあるように思います。そうしたことへのアプローチは?

佐々木 私は常に、日々の練習の中で「成功の反対は失敗ではない。チャレンジをしないことだ」と選手に語りかけています。サッカーは足を使うスポーツですから、ミスはたくさん起こります。ミスをするたびにクヨクヨしていては、良い選手にはなれません。また、リスクを恐れて安全策ばかり選んでいては、試合には勝てません。ですから、チャレンジしないプレーに対しては厳しく叱り、マイナスの評価を与えます。一方で、積極的なチャレンジから起きたミスは、プラスの評価を与えます。さらに、試合で起きた失敗の責任はすべて監督にあると示して選手をリラックスさせ、積極的なチャレンジを促しています。

もう1つ大切なことは、ベースとなる戦術を選手に植え付けることができたら、その後は思い切って選手たちに判断を任せること。試合が始まれば、監督がこと細かに指示できる時間はハーフタイムのみ。試合中の判断は、実際にフィールドで戦う選手に委ねなければなりません。したがって、選手を信じると決めたら、とことん信頼して任せる。それが絶えずボールが動き続けるサッカーにおいて、非常に重要なポイントとなります。

石 原 それは、商店街の組織のあり方にも通じる考え方だと思います。リーダーは基本構想を示したら、後は現場の人々を信頼し、思い切って判断を任せる。任された人々はそれを意気に感じ、現場ならではの発想で課題を解決する画期的なアイデアを生み出していく。こうした好循環の中で積み重ねた経験は、必ず個々の成長、組織の成長につながっていくと思います。

 

トップの決めた戦術に従うだけでは、真の活性化にはつながらない

石 原 サッカーにおいては、チームワークとともに、それぞれの選手の個性を引き出すことも重要だと思いますが、どのようなアプローチをされていますか?

佐々木 私は、選手たちの発想を大切にしています。サッカーでは、相手の裏をかくようなプレーがなければ、なかなか得点に結びつきません。例えば、相手の裏をかくようなパスを出した選手がいて、結果としてミスになってしまった。そのときに「なぜ、指示通りにしないんだ!」と叱るか、「よくチャレンジしたな!」とほめるか。監督としては、選手がどのように考え、そのプレーを選んだのかを注視し、評価する必要があります。絶えずボールが動き、瞬時に判断を下さなければならないサッカーでは、「これが正解だ」と言えるプレーは1つとしてありません。監督の指示通りにプレーすることばかりが、良いわけではないのです。商店街の場合も、トップの決めた戦術に従うばかりでは、幅広い意味での活性化にはつながらないように思います。個々人が意欲的にチャレンジし、商店街なりの成功のカタチを見つけていくことが大切だと感じるのですが。

石 原 確かに、正解は1つではないと思います。商店街の数だけ正解があり、それは当事者自身が決めていくものです。しかし、試合時間が決まっているサッカーとは違い、商店街は起こしたアクションの成果が出るまでに時間がかかります。また、成果がどのような形で返ってくるのかも見えづらい部分があります。そうした点で、一歩を踏み出せない商店街も多いように感じます。

佐々木 商店街の組織については素人ですが、うまくいくかどうかはわからなくても、チャレンジする意欲を共有し、皆でアクションを起こしていくこと自体が、まずは重要だと思います。そのプロセ

スの中で相互の信頼感や小さな達成感が育まれ、少しずつ目標に近づいていけるのではないでしょうか。

石 原 本当にそうですね。商店街も多様な価値観が入り混じる組織の中で、最初から共有できるビジョンや目標をつくることはなかなか難しいものです。例えば、最初は中心となる数人で目標

を立て、小さな成功を重ねながら想いを周囲の人々に波及させ、活動を広げていく。今後は私としても、そうしたプロセスをサポートできるよう、研究や講演などを通じて、全国の商店街で頑張る

人々を応援していきたいと思います。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。



佐々木則夫 PROFILE


1958 年山形生まれ。2006 1 から、
サッカー日本女子代表コーチ
および
U-17 日本女子代表監督に就
任。
07 年からはU-20 日本女子代
表監督を
務め、同年日本女子代表監
督に就任。
東アジアサッカー選手権
2008 で、日本
女子代表に初タイト
ル。北京五輪では
日本女子史上初の
世界大会4 位という
結果を残した。
11 年、FIFA 女子ワール
ドカップド
イツ大会では、男女を通じて日
本の
初優勝をもたらす。12 8 月、ロ
ドン五輪で、米国との決勝戦まで
女子
代表を率い、男女を通じて日本
サッカー
史上初のオリンピックでの
銀メダル獲得。

 

石原武政 PROFILE


1943 年京都生まれ。商学者・マー
ティング理論家。大阪市立大学
大学院
経営学研究科教授、関西学院
大学商学
部教授などを務め、現在、
流通科学大学
商学部特別教授。研
究テーマは「地域
商業の活性化」「ま
ちづくり」「商学の
再構築」。『まち
づくりの中の小売業』
『小売業の外
部性とまちづくり』(共に
有斐閣)、
『商業・まちづくり口辞苑』
(碩学
舎)、『タウンマネージャー』
(編著、
学芸出版社)など著書多数。
通商
産業政策史編纂委員、財団法人
阪地域振興調査会理事長、大阪
工会議所流通活性化委員会副委員

長などを務める。

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